豊ア 由美 / 『ニッポンの書評』 / 2011 / 光文社新書 / B
2011-06-01追記: 本書を実用書だと思って読みはじめた人は、予想もしていなかった広い視野と真摯な態度に感心し、本書を高く評価するだろう。
本書を評論だと思って手にとった人は、ニッポンの書評という枠の中でニッポンの書評について書かれているという射程の短さに物足りなさを感じるだろう。
ネットで他の方の書評を見ているとそんな印象を受ける。
私はどちらかというと後者なので、面白くももどかしさを感じた。
あえて言うなら各論賛成、総論反対。
本書に書かれていることについては、ほぼ賛同する。
ところが、本書に書かれていないことについて、少々ひっかかるのだ。
曰く、よい書評とは、対象となった本を応援するものであるべき。著者へのおべっかではなく、また、書き手のひけらかしではなく、読者への誘(いざな)いであるべき。
曰く、新聞の書評欄には妙に大学の先生が多い。問題ではござらんか。
曰く、面白い書評はあっても正しい書評というものはない。
曰く、映画における淀川長治さんのような存在になりたい。
こういった点については「エエこと言うなぁ」と思いながら読んだ。
しかし、書かれていない箇所について、疑問をなしとしない。
本書の題名にそって挙げてみる。
まずは『ニッポンの書評』のニッポンについて。
日本と対比されているのは主に英米限定だし、それも自分の見解ではなく丸谷才一の見解だったりする。
また(これは自覚されているが)、いろいろある新聞の中でもクォリティペーパーの書評を取りあげている。日本の全国紙の書評欄と比べているけど天秤が釣り合わない。
英米以外のアジア、中南米、東欧など他の地域の書評は? 英米の新聞であっても大衆紙の書評やネット書評は? 英米日本を問わず、週刊誌、月刊誌、テレビなど他のメディアの書評は? など、たくさん比較対象を思いつく。
それから、比較している国の出版状況、読書状況という土台の比較が欲しい。
例えば、「日本は広く浅く多くの人が本を読んでおり、書評もそういった層をターゲットにしているので短く軽い内容になる。英米では狭く少ない人が本を読んでおり、書評もそういった層をターゲットにしているので長く深い内容になる」という(根拠のない)イメージがすぐに浮かぶけど、それは本当なのか否定されるべき妄想なのか知りたい。
日本は出版状況クロニクル22 (2010年1月26日〜2010年2月25日)
にあるように、
88年の書籍売上高は8259億円であるから、09年とほとんど変わらない。だが新刊点数は37064点から78555点と倍以上になっている。
という状況なのだ。
"ニッポンの書評"はそういう状況で書かれている。
印刷・出版と距離が近い新聞や雑誌に記載される書評と、ネット上の、売る側ではなくて読む側が書いている書評とでは、目指すところがずいぶんと違ってくると思う。
ブログ書評、アマゾン書評を批判する観点に、こういう背景を含めて欲しい。
「買いたい読みたい」と思わせる書評がいい書評。
それはその通り。
でも、「買わなくてもいい」「読むに値しないだろう」と思える書評もいい書評なのだ。
新刊が毎日200点、毎週1,400点、毎月6,000点も増え続けている状況では。
次に、「書評」について。
「書評=ブックレビュー」は、モノレビューと比べてどう違うのか、という観点も欲しい。
著者がきわめて強い口調で否定しているタイプのアマゾンのユーザーレビュー、ブログの書評などは、モノのレビューではよくある光景にすぎない。
書評だけがそこまで特権的な位置づけを与えられるべき理由がわからない。
続けて書評と批評の違いについて。書評と感想文の違いについて。
英米のブックレビューにはあまり明確な区別がないようだけど、ニッポンの書評という文脈ではこれらの間には明確な区別がある、という。
著者は書評の存在意義を強調しているが、ボールを投げる方向が逆に思える。
個人的には、学校(小中高の国語の)教育に問題の原因があると思っている。
あの読書感想文を書かせることの教育的逆効果(ダメージ)。批評的に読むことを許されず、道徳的に教訓を引き出すような読み方しか許されない現代文の授業と大学入試(cf.石原千秋)。
そうやって、書評という行為が持つ可能性、その一番やわらかい部分が型にはめられ固まってしまったと思っている私は、感想文と書評の違いを力説されても一緒に熱くなれない。
むしろ書評と感想文や批評の再会を見守り助けたい。
タイトルのとおり『ニッポンの書評』という枠組みの中でニッポンの書評を論じた本としては良本。
でも、「ニッポンの外」や「書評以外の評」という補助線を引いてみると、書評論、批評としての弱さが目についてしまう。
そこをカバーした続編が読みたい。
以上です。
書いていないことについてばかり書いたので、いちゃもんのようになってしまいましたが、『文学賞メッタ斬り』の豊ア由美さんだけに、期待点が高くなっています。
また、上に挙げた点の多くは巻末の対談で触れられており、今後の掘り下げが期待できると思えるからこその注文です。
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posted by ほんのしおり at 01:09|
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