2009年09月05日

[書評] 上橋 菜穂子 / 『獣の奏者 I 闘蛇編』『獣の奏者 II 王獣編』

獣の奏者 I 獣の奏者 II 上橋 菜穂子 / 『獣の奏者 I 闘蛇編』『獣の奏者 II 王獣編』 / 2009-08 / 講談社文庫 / A+

(ほぼ)文字通りに寝食を忘れて読みふけってしまった。素晴らしいファンタジー作品。上橋菜穂子いいなぁ。

主人公はリョザ神王国の闘蛇村に暮らす少女、エリン。
リョザ神王国には二種類の象徴的な獣(けもの)がいる。龍を思わせる巨大な戦闘用生物兵器「闘蛇(とうだ)」と、王室の象徴でもあり、唯一闘蛇を倒すことができる巨大な猛禽「王獣(おうじゅう)」。
エリンは闘蛇を捕獲飼育し戦闘時には闘蛇のパイロットとなる戦士たちの村で生まれ育った。

この地方は戦闘力だけではなく経済力も誇り、豊かで強大ではあったが一段劣った存在とみなされていた。伝説神話の世界ほどには遠くない過去の経緯によるものだが、武力も生産手段も持たない王様と貴族たちが山の向こうの、そして王国全体を支配していたのだった。

まあ、昔の日本の天皇・公家たちと将軍・武家たちの関係を思い浮かべてもらえばいい。
平和と繁栄、尊いものの「象徴」としての支配者である前者と、汚れ役を引き受け、しかし経済的兵力的実質的な支配者である後者を。

まあ、こういう舞台も、そして、人物造形も、他のこれまでの上橋作品と基本的に同じ。
主人公となる少年少女が聡明で辛抱強く、逆境にへこたれないで乗り越え、そのたびに成長していく、という展開も。
だけど、この作品は圧倒的に良かった。
主人公エリンのあまりのいい子ブリが少々嫌みに感じることがないでもないけど、愛しく感じて思わず身を乗り出して応援してしまう。エリンのその頑張りが後に悲劇を生む火種になっているとも知らず...

たぶん、この作品はこれまでの上橋作品にも増して「よき意図がよき結果に結びつかない現実」と「それでもよき意思を捨てないで頑張ることの大切さ」を訴えているからなんだろうと思う。
エリン個人の視点では絶対的に善きことなんだけど、社会全体の視点から見たら悪しき結果にならざるを得ず、例え悪魔のように憎まれても阻止しなければいけないと考える大人たち。
昔の人が二度とこの悲劇を繰り返さぬようにと施した封印を、エリンのちっぽけな正義感がはがそうとする過程。
人とは異なる存在であり慣れたり飼い馴らしてはいけない野生の獣。超えてはいけない一線をロマンチックな懸想で壊してしまうエリン。

エリンのけなげさと真っすぐさに眼を細め、エリンのお馬鹿さにイライラし、エリンの勇気に胸を熱くし、物語に巻き込まれた至福の数時間でした。
これぞファンタジー。
お勧めします。

追記1:続編も楽しみです。早く文庫にならないかなぁ。

追記2:作者の名前は「かみはしなおこ」ではなくて「うえはしなほこ」でした。

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posted by ほんのしおり at 13:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍・雑誌