伊坂 幸太郎 / 『フィッシュストーリー』 / 2009-11(2007-01) / 新潮文庫 / B+
表題作を含む中短編四編。 どの作品にも伊坂らしいニヤリとクスリとホロリ(ときどきヒヤリ)がちりばめられていて、愉しいひとときをプレゼントしてもらった気になります。
中でもお気に入りは表題作でもある「フィッシュストーリー」。 英語の言い回しで「(漁師の話しがそうであるように)おおげさな話し、ほら話し」という意味なんだそうですが、これまた絶妙なタイトル。
『僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない』(p.146)>こんな小説を書いた人がいた。それを読んで歌詞に無断引用したパンクバンドがいた。この歌は誰かに届くんだろうか、届くといいな、届け!と願いながら。
『僕の勇気が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと若さで、陽光の跳ね返った川面をさらに輝かせるだろう』(p.160) 『僕の挫折が魚だとしたら、そのあまりの悲痛さと滑稽さに、川にも海にも棲み処がなくなるだろう』(p.188)
数十年の時を経て、細い線が、偶然と必然の間をゆらゆらとたゆたいながら、繋がった。
お見事! 落語のような笑いとオチと人情話のハーモニーが味わえます。
Amazon.co.jp: 『フィッシュストーリー』