村上 春樹 / 『1Q84』 / 2010-05 / 新潮社/ B+
「名物にうまいものなし」といいますが、「ベストセラーにいい作品なし」も多くの場合は当てはまりますね。
私が「趣味は読書です」というと初対面の人の多くが「へぇ、じゃあ最近話題の『○○』はどうですか?」と聞かれるのですが、「いや読んでませんので...(気まずいなぁ)」「(本当に読書が趣味なの?)って思われているんだろうなぁ」ということがよくあります。
普段は本を読まない人が手にとるからこそベストセラーになるわけで、普段は本を読まない人が読んで面白いと感じるポイントというのは、たいてい、読書が趣味という人が面白いと感じるポイントとはズレていることが多いからだと思います。
ところが、この村上春樹は例外ですね。誰が読んでも、(人生のステージにおける)どのタイミングで読んでも、その人その時その状況に応じた何かが強く印象に残る、そういう引き出しの多い作品を書いてくれます。
今回の私にとっては、やはり息子が生まれたばかりということもあって、父と子、死と再生、性と生殖、愛と生活、そんなところがポイントでした。
そして、最大のテーマに感じたのは「全体としてのシステムの意思(の不在)」と「意思と自由の及ぶ範囲(のズレ)」でした。
悪の根源を突き止めたぞ、と思っても、それもまた上や外からの指示で動いていたにすぎない。リーダーも、リトルピープルも。
一方で、じゃあ個人がどこまで自分の意思で自由に動けるのか、というと、それなりの範囲で可動領域はあるんだけど、その範囲は僕たちが思っている範囲とはちょっとズレているし、形もかなり違うよ。そういうことは自由にできると思っているかもしれないけどちっとも自由にならないし、ああいったことはできないと思っているかもしれないけど、なんとかなるんだよ。
そんな読書体験でした。
それにしてもこのBook3には驚かされました。今までは決して書かれなかった謎やつながりが物語の筋として説明されていたからです。
例えば雷の夜の受胎。今までなら「これだけ状況的にそろっているんだから、それ以外にありえないでしょ、わかるよね」と言わんばかりに説明されなかった部分だと思います。
賛否両論あるかとは思いますが、私は「村上春樹の筆によって描写されていること」から得る喜びが大きく楽しみが増えたと感じます。
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『1Q84』
posted by ほんのしおり at 14:13|
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