2010年08月29日

[書評] 南 直哉 / 『老師と少年』

老師と少年 南 直哉 / 『老師と少年』 / 2009-11(2006-10) / 新潮文庫 / B

お坊さんが、「私とは何か? 何のために生きるのか? 死とは何か?」といった少年の切実な質問に応える。

そう、「答える」のではなくて「応える」。

少年の質問に直截こたえているわけではないけど、はぐらかしているわけでもない。
少年の苦しみに同情しているわけでも共感しているわけでもない。
だけど、少年は「私は受け入れられた」と感じる。
「本当の自分」をめぐってかわされる第二夜の対話より。

老「君は会ったこともない人を捜し出すことができるか」
少「できません」(中略)
老「君は『本当の自分』ではない。だから、『本当の自分』はわからない。だから、本当の自分を永遠に知ることはできない。会ったことのない人はさがせない」(中略)
老「なぜなら、『私』という言葉は、確かな内容を持つ言葉ではなく、ただある位置、ある場所を指すにすぎない」
少「その場所はどこですか」
老「『あなた』や『彼』ではないところ、『いま、ここ』だ。『私』はそこについた印なのだ」
少「それだけのこと?」
老「それだけだ。その場所に人は経験を集め、積み上げ、それを物語る」
少「では、『本当の自分』をさがす人はただ愚かなだけですか?」
老「そうだ。しかし、愚かさでしか開けない道もある」
(p.29-34)
(※行頭の「老」「少」は引用者である私がつけ加えたものです)

どちらかというと、少年ではなくて老師の横に身をおいて読んでいたのは、私が年をとったから。

そして、私が親になったから、でもある。
例えば上に引用した「自分探し」。
今となっては、問い自体が消えてしまった。答えが見つかったのではなく、問いそのものに意味や価値を見出しにくくなってしまったから。
親というのは先祖から預かった何かを子に伝えていくための器にすぎない、という思いがある日自然な理解として腹の中に落ちていて、そうしたらいろいろな葛藤(=我利?)がすーっと消えていた。

とは言うものの、悟りを開いたわけでもないので、またいつかこの老師に会いたくなるかもしれません。その日が来て欲しいような欲しくないような気持ちです。

Amazon.co.jp: 『老師と少年』

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2010年08月21日

[写真] 木曽川花火大会

去る8月10日に行われた「日本ライン夏まつり納涼花火大会」の写真です。

義父の仕事場とは目と鼻の先なので、特等席から観賞(撮影)できました。感謝します。

犬山城の望む木曽川の真ん中に船を浮かべて、その船から3000発の花火を打ち上げます。

シャッターを空いている時間が長ければいろいろな種類の花火がたくさん写りますが、逆に露出オーバーや手ブレの危険性も高くなります。三脚を使っていてもブレてしまうことがよくありました。

あと煙。もやもやっとした煙がまとわりついてすっきりしない写真になってしまいますね。

試しにピンぼけ写真を撮ってみました。ちょっと幻想的で面白い写真ができました。

Canon EOS Kiss X2 / TAMRON AF18-270mm F/3.5-6.3 Di II VC LD Aspherical [IF] MACRO (Model B003)

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2010年08月08日

[書評] 恩田 陸 / 『蛇行する川のほとり』

蛇行する川のほとり 恩田 陸 / 『蛇行する川のほとり』 / 2010-06(2004-11) / 集英社文庫 / C+

少女がぎりぎり少女である一瞬。 その一夏を、まるでショートムービーのように、ざらっとした画像、丁寧なシナリオ、凝ったカメラワーク、美男美女の俳優で作りあげた作品。
【注意】ネタばれあり。

物語としてはそれなりに上手いしきれいにまとまっています。 つまり、成功しているとは思うのですが、どうも評価できません。
著者あとがきを読むと「少女の美しい一瞬(とき)」を描きたかったということのなのですが、私が読んだのは「容姿の美しい少女の美しい一瞬(とき)」でした。

少女あるいは少年という存在が、容姿と関係なく、純粋さと欲望のはざまで輝く瞬間とか、自分たちの正義が大人の正義によって叩き壊されるまでの間に燃え上がる瞬間とか、そういうものを期待していました。
実際、そういった希望に応えてくれる作品でもあるんですが、どうしても安っぽさ薄っぺらさを感じます。

幼少時代のトラウマを持ち出すところがひとつ(これは痛い、これが出てきたらアウト)。
ここは感動するシーンです、の次の瞬間、虹が現れたりする俗っぽさがひとつ(おまけにその虹は本物ではなくてホースの散水にしておく小ずるさ)。
そして主人公の命を交通事故で終わらせてしまうところ(ガンでないのが救いだけど)。

蛇行する川のほとり 表紙の絵も、中央公論社(中公文庫)の酒井駒子の絵の方が素敵ですね。

Amazon.co.jp: 『蛇行する川のほとり』

posted by ほんのしおり at 23:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍・雑誌