万城目 学 / 『鹿男あをによし』 / 2010-04(2007-04) / 幻冬舎文庫 / C+
登場人物よし、ストーリーよし、作品世界よし。
とても楽しめたんだけど、なかなか面白くならないことが欠点でしょうか。
すでに著者、万城目学のファンで2冊目以降として手にとる方にはいいのかもしれませんが、前半2/3が少々退屈です(後半1/3はとっても面白く楽しめるのですが)。
歴史ファンタジー小説とでもいえばいいんでしょうか。
鹿/狐/鼠は神様のお遣いで、定期的に日本列島の地下に眠るナマズが暴れないように鎮める儀礼を行っているからこの世が平和だという(現代科学の視点からすれば)荒唐無稽な、だけど、陰陽道や風水、民間信仰としてはあり得るお話しが舞台背景になっています。
それを、女子高生の青春や先生たちの恋話を含めた人間模様から、卑弥呼の秘密まで、ぜんぜん違うスケールのサイドストーリーとつなげてしまう構成力はお見事です。
夏目漱石の『坊ちゃん』にちなんだ魅力的な登場人物たち、あ〜あれはそういうことだったのか〜、後半になると一気に回収される伏線、奈良(今年の始めに旅行してきました)の魅力が伝わってくる筆づかい、それらもこの作品の魅力です。
ただ、どうしても「(技術的に)うまいなぁ」とは思っても「心に残る」たぐいの感銘を受けないのです。 エンターテイメント小説なのにそこまで求めますかねと、自分の中のもう一人は抗議していますが、森見登美彦や酒見賢一、仁木英之あたりはそこをうまく両立しているように感じておりますので、そのままここに記す次第であります。 悪しからず。
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