memento mori -- ラテン語で「死を思え」。ちょいと昔にMr. Childrenのタイトルになっていたので知っている方もいらっしゃるかもしれませんね。Wikipediaで調べてみたら、「どうせ死ぬから楽しく生きようよ」という側面もあったようですが、「人はいつか死ぬ」という大前提にたって自らの人生や生き方を振り返る見つめ直すというニュアンスを私は好んでいます。
私がこの言葉を意識するようになったのは2年くらい前でしょうか。京都の勉強会で親しくさせてもらっている方がしばらくの間、なにかにつけ「メメント・モリやて」と言っていたからです。(大阪の方なので本当は名古屋弁ではなくて大阪弁でしたが)
そして偶然に最近出会ったのが、Apple CEOスティーブ・ジョブズのスピーチ。先月Macユーザになり、今まで見向きもしなかった彼の言動に興味が出てきて、そこで知ったのが昨年スタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチです。
毎朝鏡に向かって「今日が人生最後の日だったら、自分は今日するはずだったことをやっぱりしたいと思うだろか」と問うてみる。Noという日が何日も続いたら、何かを変えないといけないタイミングということ。
死を覚えること。人生の岐路において重大な選択をするときにはこれが一番の判断基準になっている。
と言っていました。私自身? もう何日もNoという日が続いています。
ということをその京都の知り合いの方に伝えたら嬉しいお返事を頂きました。
「メールをいただいてからずっとひっかかっていたのですが」「未だどうお応えしていいのかわからないのですが」と代わりに「魂がキュッと引き締まるようなコラム」を紹介して下さいました。きっこの日記(きっこのブログ)と、そこで取り上げられていた宮田美乃里さんという歌人の生き様、あるいは死に様です。
宮田美乃里さんは乳がんの治療を拒否して34歳でなくなりました。今の私と同じ年齢です。乳がんになったのは31歳、左乳房を全摘出し、そのヌードをアラーキーこと荒木経惟が撮影した写真集が出版されています。
ProjectG/宮田美乃里 特別室–『乳房・花なり』写真歌集紹介
ここに一枚の写真が引用されています。美しい右乳房と醜い傷跡の残る左胸。あるべきものがそこにない違和感。何かをあきらめ何かを得たような静かな表情。傷だけを見れば醜いのに上半身全体を見れば美しいアンバランスな矛盾。
引用されている歌を読んでも同じような印象を受けます。どんな方のか興味を持ち、同じサイトの他のコンテンツも読んでみました。
ProjectG/ 花と悲しみ〜魂の軌跡 宮田美乃里 特別室
新聞や掲示板への投稿を読んでいると、共感や勇気励ましをもらったという声がある一方で、生きることができるのに死を選ぶのは傲慢だという意見もかなり多くあります。
宮田美乃里さんは治る可能性が高いと言われつつも治療を拒否し亡くなりました。後に写真と言葉を残して。
スティーブ・ジョブズは治る可能性はほとんどないと(最初は)言われつつ治療を受け、その後ビジネスマンとしても成功を続けて世界中にMacやiPodという素晴らしい体験を届け続けています。
どちらの生き方がよいとか、今の私には言えません。知り合いの方からの返事が「どう応えたらいいのかわからない」というのも当然で自然です。スティーブ・ジョブズはスピーチの中で「普通の人は『天国には行きたい、でも死にたくない』と思ってますよね。でも死は生の一部なんです」ともいっています。が、私にはよく分かりません。やはり死とは生きていないこと、生きるとは死んでいないこととしか思えません。
これまた一緒に教えていただいたのですが「人生のセイムスケール」というサイトが有名人を亡くなった年齢で並べ替えグループ化して紹介しています。宮田美乃里さんも掲載されている34歳のページを例にとると、土方歳三、ユーリ・ガガリーン、アイルトン・セナ、シモーヌ・ヴェイユ、沢田教一、正岡子規、といった具合です。
art random - 人生のセイムスケール - age 34
生きたくなくて死を選んだ人も、生きたくても殺された人も、死んでもいいから生きたい(行きたい)と危険な状況へ飛び込んで命を落とした人も、みな同じ基準「何歳で死んだのか」でフラットに分類されています。こういう形の編年史(?)は本当に、死を思い起こさせます。
最後に、このエントリのきっかけとなったスティーブ・ジョブズのスピーチを紹介しておきます。自分で訳そうかと思ったのですがすでに素晴らしい全文訳があったのでそちらをご紹介します。
tko chronicles vol.1 スティーブ・ジョブズ、スタンフォード大学卒業式祝賀スピーチ(050612)
嬉しいことにオリジナルのスピーチ映像もWebで公開されています。(Quicktime/Real/WIndows Media)
Stanford Report: Steve Jobs challenges Class of '05 to 'stay hungry, stay foolish.'
最初はジョークだと思って笑っていた学生が、そこから引き出される静かで力強いジョブズのメッセージに言葉を失い、でも音としては聞こえない叫びやつぶやきが画面の背後から聞こえてくる、そんな雰囲気は画像でないと伝わりません。ぜひこちらもどうぞ。