
斉藤 美奈子 / 『文壇アイドル論』 / 2002(2006) / 文春文庫 / B+
文壇を芸能界に、人気作家をアイドルに見立てて「なぜ流行ったのか」を追いかけた本です。
ベストセラーにはベストセラーになるだけの理由がある、だから書き手(供給)側からではなく読み手(需要)側の論理で読み解いてみる、というスタンス。
取り上げられているのは8名。
- 文学バブルの寵児
- 村上春樹、俵万智、吉本ばなな
- オンナの時代の象徴
- 林真理子、上野千鶴子
- コンビニ化した知と教養の旗手
- 立花隆、村上龍、田中康夫
著者の意図としては80年代から90年代を浮かび上がらせたかったということで、80年代にはほとんど読書をしていなかった私は「時代論」としては後半しかピンとこなかったのと、大事な作家が抜けているような気もする(後述)のでちょっと残念なところもありますが全体を通してみれば「斉藤美奈子の面目躍如」といった良書になっています。
斉藤美奈子には
『読者は踊る』
というこれまた素晴らしい「ベストセラーをひたすら読みまくる」という書評がありますが、『読者は踊る』が「ベストセラーに踊らされた自分たちを後から冷静に振り返るとアホだったよね」というスタンスなのに対して、『文壇アイドル論』は取り上げる作家を絞り込んだことで深み(?)が増して、茶化すというよりは皮肉、ウィット、ユーモアという大人な味付けになっています。
最初はちょっとスロースタートで盛り上がりに欠けます。
村上春樹論はすでに世の中にゴマンとありますが、特に斉藤美奈子ならでは、という視点はありません。
俵万智論は、黛まどかや林あまりなど他の短歌や俳句の「アイドル」もまとめて「新しい感性観点を古い形式で表現しただけ」「実は広告宣伝のコピーと親和性が高いので受けただけ」というものです。敵を作りそうな発言をうまーくオブラートに包んでいるのは面白いけれど、内容自体はピンときません。はあ、そうですか、という感じ。
吉本ばなな論は、、、なぜ吉本ばななが受けたのかは腑に落ちません。著者は実は「吉本ばななはコバルト文庫だ(だから受けたのだ)」と指摘しています。これは、なぜ私が吉本ばななを面白いと思えなかったのかについてはピタリ当ててくれているとは思いますが、じゃあなぜコバルト文庫的要素が受けたのか、まで遡ってはくれません。ちょっと物足りなかった...
林真理子、上野千鶴子論は刺激的です。
下から上へ(一OLからの成り上がり)の林真理子 v.s. 上から下へ(アカデミズムから下ネタ)の上野千鶴子のコントラストを、本人たちはどう振る舞い発言したのか、どういう人がどう支持したり反発したのか、など週刊誌風のあおりで「アイドル論」というタイトルにふさわしい内容が展開されます。
斉藤美奈子ならではのフェミニズム論の名著
『紅一点論』や
『モダンガール論』
などと合わせて読むとさらに吉。
知と教養シリーズの立花隆、村上龍、田中康夫も刺激的です。
時代より早く特定の方向を示して受け入れられず、その後(それぞれ守備範囲は違いますが)知性教養の発言者と見なされ始めたら今度は本人が勘違いしてしまってまたズレてますよ、という描き方です。この人が本当に素晴らしいのはこういう時なのに、というところをちゃんと示しているので嫌みがありません。
時代とクロスして再びずれてしまった村上龍について:
現実(ノンフィクション)より虚構(フィクション)の分量が勝っているとき、村上龍の物語世界はリアルに立ち上がってきます。しかし、皮肉なことに、フィクションの武装を解き、虚構の分量が少なくなればなるほど、龍ワールドは無惨なほころびを露呈します。いっちゃなんだが、村上龍のエッセイに人を納得させる力はなく、ノンフィクションで現実を再構成する力はさらにありません。(P.251)
どうです、この本の切れ味と語り口。
「文学論」ではなくて「文学論・論」「文芸評論家の評論」という著者のねらいもよく発揮されていて、この三人を持ち上げたりけなしたりした文学評論家たちも一緒に血祭りにされていてちょっとだけ愉快です。
解説は『親指Pの修業時代』の松浦理英子で、これまた素晴らしい内容。実は「大事な作家が抜けている」というのもこの解説を読んで後から「そうそう」と思った次第。ちなみに抜けているのは山田詠美です。
文庫版の表紙は舞台とスポットライトをアレンジしたような意匠になっていて、しかもそのスポットライトを浴びているのは作家ではなくて評論家である斉藤美奈子の名前。ふと、次回は「作家論」ではなくて「編集者論」を書いて欲しいなぁと思いました。たとえ業界内では名物編集者であっても一般読者には縁のない人。でも音楽の世界で作曲家/作詞家/演奏者だけではなく指揮者/プロデューサー/DJが脚光を浴びているように、編集者の力や影響力も大きいのではないかなと思っています。真正面から取り上げたらきっとつまらなくなりますが、斉藤美奈子ならそこを何とかしてくれそうな気がします。
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