
東野 圭吾 / 『秘密』 / 2001(1998) / 文春文庫 / B+
妻(直子)と娘(藻奈美)を乗せたバスが転落事故を起こした。
妻が命を落とした。娘は意識不明の重体。
やっと意識を取り戻した娘はしかし、妻の意識を持っていた...
主人公(平介)が亡くしたのは妻なのか娘なのか。
娘の人生をもう一度(?)生き直すことになった母親の気持ちとは。
二人の知り合いに「誰かいい人(さっか)いない?」と聞いたら二人とも「東野圭吾」というので、読まず嫌いだった東野圭吾を読んでみた。うん、面白い。
なんとなく文章全体にはぎこちなさが漂っていて、最初は「多作な人なのに変なの」と思っていたけど、でもそれが誠実で朴訥な語り口に思えて好感。
北村薫の『スキップ』は、女子高生がある朝目覚めたら主婦になっていた、というお話だった。
いろいろな困難も微笑ましく読めた。
ところがこちらは主婦が事故で意識を失って目覚めたら娘になっていた、というお話。
かつて夫だった人と、父娘として接することになる直子の心境。
どうやら自分が死ねば娘が生き返るという予兆を感じた時の直子の喜びと悲しみ。
それを知らされた時の平介の戸惑い。
などなど、複雑さとそれに伴う痛みや葛藤が作品を引き締めていて、最後の章では思わずうるっときてしまった。
電車の中でなかったら涙がこぼれたかも。
私が私であること、というのは何によって担保されているのだろう。
肉体? こころ? 記憶? 経験?
ある意味古典的なSF/文学/科学/哲学の題材を上手くミステリー仕立てのエンターテイメントに昇華させていて素晴らしい!
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『秘密』