池澤 夏樹(著) / 『静かな大地』 / 2007-06 / 朝日文庫 / C+
沖縄のイメージがある池澤夏樹だけど、この本は北海道が舞台。 表紙の模様をみてピンと来る方もいるかもしれませんね、アイヌ関連です。
著者の母方の先祖をモデルに、実話と寓話を織り交ぜて紡いだ叙事詩とでもいえばいいのでしょうか。
明治初期に淡路島から北海道へ入植した一家の兄弟。その娘が聞き書きを一冊の本にまとめるという体裁をとりながら、様々な人物が入れ替わり立ち代わりその兄弟、三郎と志郎、その家族や友人たち、仲間のアイヌたちがどう生きどう追いつめられていったのかを、押さえた筆致で描きます。
好感を持ったのは、この「押さえた筆致」です。
「感動の巨編」とか「涙なくしては読めない」とか、そういう「感動の大安売り」とは無縁です。
江戸から明治にかけてのアイヌへ和人がしたことのひどさ。
人間がどれだけ一生懸命努力しても、それをあっというまに奪ってしまう自然の厳しさ。その反対の自然の豊穣さ。
人間の強さと脆さ。強い思いと願い。それが受け入れられるとき、受け入れられないとき。
キリスト教の神様とはまた違った、アイヌの神様の弱く、でも人間によりそうあり方。
三郎と熊の神様の会話。
目前に危機が迫っているとして、その先はどうなのですか。この作品のハイライトです。
わしにもわからぬことを問うな。先は見えぬ。
では、ずっと遠い先は。
見えているのではなく、信じているところを言おうか。 今、和人は驕っているが、それが世の末まで続くわけではない。 大地を刻んで利を漁る所業がこのまま栄え続けるわけではない。 与えられる以上を貪ってはいけないのだ。 いつか、ずっと遠い先にだが、和人がアイヌの知恵を求める時が来るだろう。 神と人と大地の調和の意味を覚る日が来るだろう。それまでの間、アイヌは己の知恵を保たねばならない。(p.534)
後からジワジワと思い出しそうな予感がします。
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