2008年09月15日

[書評] 伊坂 幸太郎 / 『魔王』

魔王 (講談社文庫 い 111-2) 伊坂 幸太郎 / 『魔王』 / 2008-09-12 / 講談社文庫 / B-

好きかどうかでいったら好きな作品なのだけど、どうも諸手を上げてよかったとは言えない後味の悪さが残る。
本書は、二人の兄弟の兄の視点で書かれた作品と弟の嫁さんの視点で書かれた作品からなる二部作。
村上春樹の「世界と私がたたかう」系のお話でもある。これがよくなかった。

作品の背景はこんな感じ: 景気は一向によくならない。自衛隊を始めアメリカのいいなりなままで、中国も挑発的な態度に出てきて経済的にも外交的にも閉塞感がただよっている日本。 そこに表れた若き野党の党首のカリスマ的な言葉に日本全体が飲まれていく。
戦後教育を受けた私たちは、暴走する軍部と巻き込まれた無垢な大衆という図式を思い描きがちだけど、実際はこんな風に民衆がけしかけたんじゃないか、と思わせる描写が続く。
前編で兄はそれに危機感を感じ、孤独な戦いを挑むのだが、、、

村上春樹の「世界と私がたたかう」系のお話でもある。これがよくなかった。
登場人物ひとりひとりはとってもよく描けている。
少し悲観的で少し楽観的な秀才くん。頭はそれなりに回るのに、行動に抜けがあるタイプ。
もう少し楽観的で「難しいことはわかんねぇ」といいつつ、行動にタフさとスマートさがあるタイプ。
伊坂幸太郎ならではの、魅力的な登場人物たちに感情移入してしまう。

ところが、「底の見えない悪意」「明確ではないけど何かが少しづつ狂いはじめている」「でも周りの人たちは気がついていない」「誰にも感謝されないけど、僕が動かなければ世界がとりかえしのつかないことになる」という世界観が村上春樹の劣化コピーに見えてしかたがない。
うーん、残念!
阿部和重ほどのむき出しの悪意もなく、村上春樹ほどの世界の広がりや深みもなく、村上龍ほどのヒリヒリ感もなく、『オーデュポンの祈り』ほどの幻想感もなく、『陽気なギャング』ほどの享楽感もなく、といったように「何か足りない」感が最後まで残ってしまう。

「ゆるゆるの日常のすぐ裏に、気がつかない間に(いや、高揚している間に)忍び寄る全体主義の不気味さ」を描く、という意味ではけっして悪くないどころか成功しているとは思う。(本当にぞっとしますよ。)
だけど、だけど、伊坂幸太郎ならではのねじれたユーモアがもう一つ欲しかったなぁ(読み落としているだけかしら)。

Amazon.co.jp: 『魔王 (講談社文庫 い 111-2)』

posted by ほんのしおり at 23:59| Comment(1) | TrackBack(0) | 書籍・雑誌
この記事へのコメント
読み落としちゃったね^^;
Posted by at 2012年08月19日 17:29
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