2009年07月21日

[書評] 村上 春樹 / 『1Q84』(BOOK 1, BOOK 2)

1Q84 BOOK 1 1Q84 BOOK 2 村上 春樹 / 『1Q84』(BOOK 1, BOOK 2) / 2009-05 / 新潮社 / B+

普段は文庫が出るまで待って読む私ですが、今回は友人から貸してもらえたので1ヶ月遅れで読みました。
1回読んでもよく分からなかったので2回読みましたが、それでも分からない箇所については「そういうもの, that's the way it is」として受け止めることにして、いったん今の時点での読書感想文をしたためることにします。

※以下、ネタばれアリなのでご注意を。

本の帯などには「こうであったかもしれない過去」「そうではなかったかもしれない現在」といったことばが強調されています。
たしかに、素直にストーリーを読めばそういうことになるんだと思います。登場人物たちも自ら「それってパラレルワールド?」と悩んだりしてますから。
ただ、「そうではなかったかもしれない現在」を描くことで「こうでしかない現在」の大切さを噛みしめる、というのは、それはそれで大切な姿勢だし大事なことだとは思いますが、もっと大きなテーマが隠れて見えなくなってしまう危険性もある、と思います。

そのもっと大きなテーマとは「運命と主体性」。というのが二回読んでみての感想です。
私たちは運命という神様の書いたシナリオ通りの人生をいきている訳ではないし、かといって自らの人生のオーナーとして好きなようにいきていける訳でもない。 真実はその中間くらいのどこかにあって、おそらく苦い味がするけど時にはっとするような甘みを感じることがある。
といった具合で。

ただ、これも深みのあるテーマとは言えないし、「現実が小説に書かれた通りに変わってゆく」という舞台装置とのねじれも座りが悪いし、それに何より、「生殖の忌避」がこれほどまでに前面に出てくるとうんざりを通り越して憎悪すら感じます。

主人公の天吾の血のつながらない父親の話。
もう一人の主人公、青豆に関する両親との絶縁。
三人目の重要人物である"ふかえり"の父親との「多義的な」近親相姦。
天吾の人妻との逢瀬、青豆の行きずりのセックス、子供を産めないふかえりのセックス。
青豆のパートナーとなる老婦人は娘を自死で亡くし、信頼できるボディーガードのタマルはゲイ。
リトルピープルは6人が7人へとその場で(無性)生殖・増殖。
「空気さなぎ(実際には繭)」という胎生ではなく卵生、昆虫の生殖。
などなど、生殖と結びつかないセックスの頻繁な描写がこれでもか、と描かれます。
生殖とは古来もっとも思い通りにならず、運命/宿命とつながっていたのではないでしょうか。その斜め上からの否定と読めてしまって寝覚めの悪い読後感です。

最後の最後に、父の(事実上の)死をみとる病院の窓から、もうすぐ出産という猫のお母さんのいとおしそうにおなかをなめる姿が描かれ、ほのかな生/性の希望を示していますが、さて。
(村上春樹作品では猫とネズミ、そして羊が重要な何かの比喩として登場しますね。)

オウム真理教を想起させる新興宗教「さきがけ」の描写はおそらく作者自身の告悔。 最終的にグロテスクな結末を迎えたとはいえ、それでも一定の人を惹き付けていたし、私たちの鏡、白雪姫の継母の鏡のような存在だったオウム真理教。 他の謎についてはBOOK 3を読みたいとは思わないけど、「さきがけ」の扱いについてはBOOK 3が出ないとおさまりが悪いと思います。 BOOK 2までの内容だと「外部の人や凡人には分からない論理や正義がある」ということになってしまいますからね。

(最後に他人のふんどしをお借りします。)
大塚英志が『物語論で読む村上春樹と宮崎駿』で「村上春樹の主人公(僕)はいつも肝心なところ(苦悩や苦労)を誰かが代わって担っている」と批判しています。 例えば『海辺のカフカ』では中田さんに父親殺しをさせている間、自分は母親と性交中って、オイデプス神話の半分だけってあり得ない、など。
この指摘自体は本書でもあたっていて、天吾が人妻やふかえりとセックスしている間、青豆は「天吾君のため」と覚悟を決めて自らを暗殺や自殺に駆り立てています。 このアンバランスは『ねじまき鳥クロニクル』でも他の作品でも目立ちますね。(『アフター・ダーク』ではどうでしたったけ?) 主人公が怠けている、他人に押し付けているというより、周りが引き受けているというストーリー展開なので、個人的にはそれほど嫌みには感じていなかったのですが、意味のあるアンバランスなのでしょうか。 それとも「意味などない」のでしょうか。

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posted by ほんのしおり at 00:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍・雑誌
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