島田 雅彦 / 『退廃姉妹』 / 2008-08(2005-08) / 文春文庫 / B+
戦争が、終わった。
アメリカ兵がやってくる。占領軍として。
物質的には満足しているが、性欲に、征服欲に飢えた兵隊が。
二人の姉妹、有希子と久美子は決断する。自宅を進駐軍の慰安所にしようと。
生きるために。ごはんがなければ生きられないし、ごはんだけでも生きられないから。
有希子と久美子はそれぞれ別の仕方で退廃していく。
姉の有希子は一人の男のために。妹の久美子はすべての男のために。
時にあっけらかんと、時にハラハラと、時に痛切に。
性格が正反対の姉妹という立場をうまく使ってモノゴトの両面を描いてみせたり、やりたいこととやらねばならぬことの優先順位が姉妹とは正反対のお春や祥子を登場させることで表と裏から当てた光でハレーションを起こしてみせたり、親の因果を子に巡らせてみたり。
圧倒的な立体感と奥行感で、戦中戦後の「今と変わらないもの」や「忘れてはいけない、今とは変わってしまったこと」を訴えてくる作品でした。
デフォルメされた映像が伝えるリアルさ。描写の軽さは内容の軽さを意味しません。
島田雅彦らしい素晴らしい作品で、氏の愛読者であればA評価でお勧めします。
そうじゃない人には少しわかりにくいし、表紙の絵もちょっと内容を誤解させそうな雰囲気になっていたりするので星半分だけ引いてありますが、小説という形のもつ豊かさを感じさせてくれる良品です。
Amazon.co.jp: 『退廃姉妹』