三崎 亜記 / 『鼓笛隊の襲来』 / 2011(2008) / 集英社文庫 / B-
表題作を含む9編からなる短編集。 もともと設定の意外さ面白さで読ませるタイプの作家なので、短編向きかもしれないと期待して手にとったのですが、残念ながら「あと一歩」感が否めません。
表題作の「鼓笛隊の襲来」は、鼓笛隊がまるで台風のようにやってくる、自然災害とも言えるような言えないような不思議な災害のお話し。
これはよかった。昔はね、と「お話し」で乗り切ろうとする主人公一家(のおばあちゃん)。完全な防音室があるからと避難しない傲慢な隣人(金持ち)。台風(鼓笛隊)のエネルギー源とそれがもたらす災厄と恵み。
分かっているようで分かっていない人知を超えた出来事。コンクリートなど物質物量で正面から対抗しようとしてもしきれるものではなく、紙と木の家しかなかった先祖がそれなりにやり過ごしてきた知恵に見習うべきものがあり、それはもう、先日の大地震を思い起こさせるものがあります。
ごく普通の日常世界と一点だけが歪んでいる世界。そこを淡々と描くことで私たちの世界の歪みともいえない歪みを描くという作者のスタイルが成功している作品です。
ちょっとした教訓も、説教臭くはない程度に悲しみとおかしみのバランスがとれていて、すっと入ってきます。
ところが、その他の短編はどれも決して二流ではないけど一流でもなくて、よくできているけど好きになれないお話しが続きます。何かが足りないんだよなぁ。もしくは何かが余分なんだよなぁ。
いやいや、待て。落ちているのは私の感度であって、著者や作品ではない可能性もあるぞ。 と思っていたのですが、直後にいしいしんじの短編『雪屋のロッスさん』を読んだら、こちらはびしばしと胸に響いてきます。
「日常の中に斜め上にズレた事象が発生したら、その裂け目から除く何かは、裏側から僕らの生活人生の別の側面を照らし出すはず」という計算が先にあって、作品はそれを無理矢理小説という形にしたもの、になっていると感じます。
どこか、作品世界に没頭できないニセモノ臭がただよいます。
小説の歓びに浸りきれない後味の悪さが残ります。
新人として読む分には「今後に期待」と我慢できたものの、もうそういうわけにいきません。 読後感が期待を裏切るようになってきました。 次の作品には手が伸びないと思います。
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